昔と今のカオスバトルを見比べてみる記事(後編)
(後編)なので(前編)があります。先に読んでね
新天地「ようつべ」
前回はうごメモが2度目のサ終を迎えたところまでだった。その後カオスバトルとその作者はどうなったのか。
さて、「うごメモ」がついに終了しカオスバトル作者の多くは、うごメモ自体から離れていった…はずなのだが、一部はそれでもカオスバトルを作り続けることを選んだ。そんな彼らが向かったのはYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトであった。「カオス」の面々が動画サイト発ということを考えると、一種の回帰だと言えよう。
しかし問題がある。うごメモで作ったものをどうやって投稿するのか。
実はうごメモ3Dは作品をAVIファイルとしてSDカードに出力できる機能がある。だから後はPCに転送すればそれなりに簡単に投稿自体は出来る。*1いくつかの作品はアーカイブ目的でそのまま投稿されているのが分かる。
…ところで現代の、特に「カオスバトル製作者層の」ネット事情を考えてみて欲しい。普通動画制作をするというならばPCは必須アイテムだ。上記のような手順を踏む場合ももちろん必要だろう。だが、うごメモの利用者にとってはそうとは限らない(むしろPCが無くても動画コンテンツに触れられるのがうごメモの特色だった)。
一方で「現代」という点で見てみると、PCは持って無くてもスマホならある、という事も特に珍しくなくなっている。そしてアプリの発展もめざましく、動画編集もスマホ一本で可能となっているのである。
そんな時代だ、過去のツールを引っ張り出して面倒な変換作業を挟む必要なんて無い。最初から、新しいやり方で作りだせば良い。
そうして、カオスバトルの新時代が始まった。
※補足として、別にYouTubeのカオスバトルが全てスマホ製という訳では無いと断っておく。恐らくはPCで作っている作者もいるのだが、それでも前述したような旧うごメモからのコンバートを行っているような者は少ない。PCがあろうとなかろうと、掛かる手間を考えた結果なのだろう。
ツールの進化でバトルは「進化」した?
「うごメモ」は本来、パラパラ漫画形式で手軽にアニメーションが作れるツールとして出発していた。一方で単に動画制作ツールとして見るならば、約1分しか使えない、色数も少ない、画質も音質も……とハンデだらけである。これがハンデとして降りかかるのもカオスバトルというジャンルが「アニメーション制作」とかいうのとは対極に位置するためだろう。
そしてツールを移行させたことによって上述のハンデは取り払われ、より自由な制作ができるようになった。
- 動画は約1分まで→無制限
- 色・画質の制限→無し、元の素材をそのまま貼り付けられる
- コピペ→うごメモよりも素材の流用が楽
- 静止画だけでなく動画素材も素材に活用できる
…と利便性も表現の幅も明らかにうごメモ時代に勝っている。ツールの移行が起こるのも納得だ。
上記のような変化が作風に影響をどう及ぼしたかを、いくつか例を挙げながら見ていこうと思う。
登場キャラ・再生時間の増加
タイトルにも銘打ってる通り、100人ものキャラが登場するもの。無論1分という時間では(余程の出オチでも無い限り)扱いきれる量ではない。ちなみに再生時間は20分ある。これは極端な例だが、多くの動画は3分超が普通になっている。
演出過多
これは上記した再生時間の増加とも直結している。動画を素材として簡単に使えるようになった影響で、特にアニメキャラなどは映像をカットインとして利用する事例が増えている。
その他、ようつべ時代に見られる傾向
ここからは単純に制作ツールの変化によらない作風の変化も追っていく。
登場キャラの傾向
まず、現在のカオスバトルに登場するキャラは「うごメモ時代の『カオスキャラ』」と「ようつべ時代以降の新キャラ」に大別される。ドナルド・ムスカ・修造は多くの動画で残されている。「タイムカプセル」がまだ残されているのはいいことだ。では新キャラはどうだろうか。
ここで、現代のカオスバトル作者の認識を知れる資料を用意した。ニコニコ大百科の「カオスバトル」の記事…の過去リビジョンである。
「主な参加者」の項目を見てみるとまず「ニコニコ、ようつべ等で出没し易い参加者を挙げてみる。」という記述があり、新世代目線の記述であることが分かる。以下に参加者の一覧を引用。
聖徳太子と、ビリーまではギリギリ旧メンバーであるが、それ以降は聞かない名前がちらほら。「水曜どうでしょうのフランベの人」の絶妙なニッチさはまさにカオスという感じだが、檀黎斗とDaisukeはいずれもネット上で広く話題となったキャラであり、水曜どうでしょうのフランベの人などとは傾向を異にする(「Mii」については後述する)。
実際の動画のサムネを眺めていると、旧メンを除いた人選は「製作者の趣味」と「近年のネット上での流行」が非常に反映されやすいということが分かる。
出典*2
出典*3
新メンバーのうち、檀黎斗は死亡→復活というムスカばりに便利な持ちネタがあるからか、流行に関わらずレギュラーとしての座を確立できているようである。このような特異性を確立できるような人材は今後登場するのだろうか。
あと、現在フランベの人は見る影もない
Miiという存在に見るMADへの意識の変化
もう一個特筆すべき点として「Mii」というキャラの存在がある。これもゲンムのやべーやつと同様ある程度定着しているメンバーなのだが、それが使われている理由というのがかなりの曲物なのだ。
ここで彼のボイスとして使われているのはMiiが登場する「トモダチコレクション」の合成音声である。「トモコレ」内には、入力した言葉をなんでも喋られせられる機能*4が存在する。
なんでも。結果「Mii」はなんでも喋れるキャラとして唯一無二のポジションを確立した。他者の語録や技をパクり、敵の攻撃も簡単に跳ね返せる、それまで万能であった「その他」すら上回る、まさにチートと言うべき存在である。
完全に私見となるが、こういうMADに好きな言葉を喋らせられるツール、Miiもそうだし例えばゆっくりなんかもあるとすれば同類だろうが、そういうのを使用するのは、はっきり言ってカオスバトル…というか会話系MADというものの作る上と見る上での面白さを毀損する行為なのではないかと思う。
作る上での面白さというのは、例えば飲食チェーンのキャラクターのセリフをつなぎ合わせて無理やり「やんのかテメェ!やんのかオイ!」と喋らせるとか、語録を片っ端から逆再生して「おいアホ」「はぁうっせえな?」とか引き出したりとか、YouTuberの発言をひたすら走査して「アナル」と聞こえてしまう箇所を蒐集する執念とか、だと思っている。
そしてそれらを見て、「これどうやって『やんのかテメェ』とか言わせてんだよwwwww」*5となるのもカオスバトルの一つの魅力だったはずだ。手間がかかっているとかいないとかじゃなくて、セリフをぐっちゃぐちゃに切ったり貼ったりして生まれる化学反応を楽しむべきだろ!そこを抜かすな!
…おそらく、参戦させている側はそんな高尚なことまで考えながら作ってる訳ではないんだろう。これ以上は個人攻撃になるのでソースは張らないが、Miiを参戦させるオリジンとなった作者のTwitterからは「Miiは何でも喋らせられるので面白い」「(Miiは)もはや実質主人公」という発言まで見られるので、多分そのへんの認識がちょっとズレてるだけです。終わり。
界隈として見るカオスバトル
自分は外野なので、現在の「カオスバトル界隈」について詳しくは分からないが、現在進行形で詳しく分からなくてもクソみたいに荒れていることだけはよく分かる。
ざっと見ただけでも以下のような事例が確認できる
- 他ユーザー作品の無断転載(多くは作者への暴言などが添えられる)
- カオスバトルと名前だけ付けた無関係の不謹慎ネタ
- 上記のような荒らしに対する報復・晒し動画
- ↑の亜種として荒らしユーザーをカオスバトルに参戦させて殺す動画
上記はマジなのでぜひYouTubeで「カオスバトル」と検索して(アップロード日順で)探してみて頂きたい(これが読まれる頃には消されてるかもしれないが)。
元々作者層が若いが故に必然とこうなる…かもしれないが、少なくともうごメモ時代は荒れてるユーザーをカオスバトル内で晒し上げるという行為は(少なくとも、現在ほどは)見られなかったことを考えると異常事態だと言える。
これについてはYouTubeというプラットフォームに移住したという点が大きいと思う。うごメモ時代に比べるとユーザーの名前は大きく表示され、さらにチャンネル登録によって特定人物を追いかけるのも容易になった。さらにはうごメモ内で交流が完結していることも多かった時代に比べてTwitterなど他SNSでのやり取りも増えたことも影響しているだろう。
正直この状況で新規層が見込めるかというとそうでもなく、自浄作用も無ければこのままカオスバトル界隈が先細りするのも目に見えている。今度こそカオスバトルは終焉を迎えるのだろうか…?もう死んでるってのはナシな!
おわりに
とまあ非常にネガティブな結論に至ったが、こういった変遷を辿るコンテンツもそうそう無いだろうし、自分の思い出にして原点であった作品が変化していくという事自体が面白くて調べてしまったので、同じく懐かしく思われていた方々にも知ってもらおうと思った次第である。
うごメモ時代の作風と現代の動きを見比べてみると、それだけ「うごメモ」の文化が特異な発展を遂げてきたことがよく分かる。そういった文化についての記録は、見たところかなり少ない。特に作品やそれを取り巻くコミュニティの多くはロストしているのが、こういった考証を行う上での障壁となる。それゆえこの記事も筆者の思い出補正にかなり影響されていることをご了承頂きたい。もし事実と違う部分があれば指摘して頂いてもいい。
最後に、そんなうごメモから当時の作品をサルベージしようと活動が行われている事を添えさせていただく。
当時のIDが必要など発掘にはかなり厳しい条件もあるが、もし今回の記事をきっかけに興味を持っていただい方は、ぜひとも挑戦して当時の思い出に再び触れてみてほしい。
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*1:しかしDSi版はそうもいかない。GIF出力はできるが当然音声は無くなってしまう。直接SDカードに保存した場合は独自規格のデータとなるので、オリジナルの状態で復元するのは困難である
*2:上:https://www.youtube.com/watch?v=GxIKTLj5sSg 下:https://www.youtube.com/watch?v=Rt7Ep3G-t-Y
*3:https://www.youtube.com/watch?v=TwBTroIcr64
*4:登録したMiiの好きな言葉として設定すると、ゲーム内でそれを読み上げてもらえるようになる
*5:正直なところ、これについては未だにどうやって言わせてるのか分かっていない。分かる人は誰か教えて下さい……